ジョン・マーティン - カタストロフの画家

jazzydays2006-06-06

平凡な名を持つ異形の画家。
ジョン・マーティン。
(John Martin 1789〜1854) 。
19世紀イギリス・ロマン派。
肩書きは一応、風景画家・
歴史画家とされているが、
その画面上に広がる景色は
およそこの世ならざるもの。

聖書の『黙示録』や
ミルトンの『失楽園』に
多くの題材を得た彼が
描き出す世界は、
終末論的イメージの
宝庫である。
天空を切り裂く雷光、
砕け散る岩山、
崩壊する都市、
荒々しく猛り狂う大海原.....。


ジョン・マーティンを一言で形容するなら、
まさしくカタストロフの画家だ。


その尋常ならざる画風から人々は彼をMad Martin
呼んだとされるが(実情は放火犯の兄と混同されたらしい)、
生活ぶりはごくノーマルだったようだ。
それでも、彼の異形の作品群から受ける印象は非常に強烈。
マーティンという画家は常人には見えないものを見る力を
持っていたのかもしれない。
つまりは幻視者


幻視者=画家としては、マーティンとほぼ同時代の
ウィリアム・ブレイクが名高い。
彼は幼少時から天使の姿をたびたび
幻視したと語っており、その神秘的な作品の数々は、
彼が「心の目」でありありと見たものが題材だとされている。
マーティン研究家のMichael J. Campbellは、
いみじくも『Visionary Printmaker=(幻視者としての版画家)』
という大部の著作でマーティンの作品を詳しく分析している。


私とマーティンを結びつけたのは、
今はなきトレヴィルから刊行されていた
『ピナコテーカ・トレヴィル・シリーズ
第二巻ジョン・マーティン画集』。
その作風に衝撃を受け、彼の版画を求めて栃木県立美術館
足を伸ばしたり、海外からマーティン関連の書籍を
取り寄せたり、とにかく激しくのめり込んだ。



数年前にはロンドンのテート・ブリテン
(旧テート・ギャラリー)にて、
マーティン晩年の
『黙示録三部作』に対面。
その時はあまりと言えばあまりの巨大さ、激烈さに、
しばし口も聞けず、ただただ展示室のベンチに
へたりこむばかりであった....。
(三点とも縦横約3mのサイズ!)
昨年暮れには、静岡県立美術館にて、
失楽園』と『聖書』数十枚の版画とめでたく対面。


さて。本日は。
ようやっと、ようやっと遭遇できた。
由良君美(ゆら・きみよし)著
『ジョン・マーチンの芸術』(1977、三省堂)。
この本を、どれだけ探し求めてきたことか!


トレヴィル刊のマーティン画集で解説を担当している
大瀧啓裕(おおたき・けいすけ)氏が
参考図書として挙げていたタイトルは
『ジョン・マーティンの芸術』。

「マーチン」と「マーティン」。

この、わずかな表記の違いで
一体何年間を無駄にしたことか!
確かに「ティ」のほうが原語発音に近いんだろうよ。
しかし、著作のタイトルは刊行時のままに
するのがスジじゃないのか。


それはともかく。
約十年ぶりに訪れた広尾の都中央図書館。
ホスピタリティあふれる対応は
本当に素晴らしい。
公僕=civil servant だもんな、
サービス業だもんな、こうでなくっちゃな。


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追記。
その後イギリスを訪れるたびに
欠かさずテートにて
ジョン・マーティンの
作品を拝んできた。
最大の回顧展は忘れがたい。
これを逃したら一生の不覚、
とばかり滞在中の時間を
ほとんど鑑賞に費やした。
悔いはない。
http://www.tate.org.uk/whats-on/tate-britain/exhibition/john-martin-apocalypse