ブラッディ・グロスター

jazzydays2007-07-14

ウォッカ+トマトジュースは
ブラッディ・メアリー。
訳せば血まみれメアリー。
プロテスタント教徒を
大迫害した
イングランド女王、
メアリー一世に由来する
ネーミング。


私が大好きな
ハマグリエキス入りの
トマトジュース、
Clamato で作る
ブラッディ・メアリーは
厳密にはブラッディ・シーザーという
本名(?)があるらしい。


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ウォッカでなくジンを使えば、
ブラッディ・サム。
私は最近、焼酎バージョンに
凝っている。
狂っている。
ハマりまくっている。
だが寡聞にして。
焼酎+トマトジュースの
既存カクテル名を今のところ知らない。


友人ALさんは「額田部皇女」と呼び、
大森の魔界=ジャズ酒場・佐和では
「オクトパス」と呼ぶそうである。
ならば私は。
ここに。
ブラッディ・グロスターと
命名しよう。


シェイクスピア作品中、
私が最も心ひかれるキャラ、
グロスター公リチャード
(=『リチャード三世』)に
ちなんでのネーミングだ。
極悪非道、冷酷無慈悲、
稀代の大悪党。

行く手を阻むものは
血縁だろうが忠臣だろうが、
おかまいなしに
次々と血祭りに上げ、
王座簒奪への道をひた走る。


びっこでせむし(=足が不自由で
背中に突起がある、と表現するのが
「正しい」んでしょうなあ)、
お世辞にも美男とは呼べぬルックスなのに、
女を口説き落とす術にかけちゃ天才的。


それでいて。
良心の呵責にさいなまれ、
己が死に追いやった者たちの
亡霊に震えおののく
人間臭い弱さを秘めている。


『リチャード三世』の訳書は
何点も世に出ており、
私は福田恒存訳→小田島雄志訳→松岡和子訳
の順に読んできた。


リチャード三世 (新潮文庫)

リチャード三世 (新潮文庫)



シェイクスピア全集 (7) リチャード三世 (ちくま文庫)

シェイクスピア全集 (7) リチャード三世 (ちくま文庫)


あ、そうそう。
つい最近。
日本における英文学界きっての政治屋
河合祥一郎訳も出たわねえ。



掛け言葉や駄洒落に現代的な
工夫が凝らされてて、
なかなかイイ線いってたわよ。
でもね。
シェイクスピアの翻訳で
私が一番好きなのは、
誰が何と言おうと、
松岡和子!!!
わけても、この『リチャード三世』はピカイチだ。


ラストを飾る有名なリチャードのセリフ、
「A horse! A horse!
My kingdom for a horse!」
これが小田島訳では。
「馬をくれ、馬を!
 馬のかわりにわが王国をくれてやる!」
一番新しい河合訳では。
「馬だ!馬だ!
 王国をくれてやるから馬をよこせ!」
さて。
松岡訳ではこうなる。
「馬だ!馬をよこせ!
 代わりに俺の王国をくれてやる、馬!」
最後に「馬!」を持ってきた理由を
松岡自身があとがきで語っている。


≪リチャード三世という稀代の悪党が
 この世に残す最後の言葉は原文では
 a horse、それを「くれてやる」で
 おしまいにしてはマズイのでは?
 ここはどうあっても原文の
 語順を残したほうがいい。
 そう考えたわけだ。≫


お見事、という他はない。
彼女の訳文は簡潔・明瞭・現代的で、
特に女性のセリフが自然な点が心地よい。
まさに「平成のシェイクスピア」である。
大体なあ、男が書く女言葉は不自然なんだよ。


ところで。
実在のグロスター公リチャードは、
さほど悪辣非道な人物ではなかった、
という研究結果が最近では定着している。
ちなみにコレが彼の肖像画
いかにも繊細で神経質そうじゃありませんか。



リチャード≠極悪人説については、
以下の2冊を参照されたい。


イギリス美術 (岩波新書)

イギリス美術 (岩波新書)


時の娘 (ハヤカワ・ミステリ文庫 51-1)

時の娘 (ハヤカワ・ミステリ文庫 51-1)


さてさて。
我がオリジナル・カクテル(?)
ブラッディ・グロスターのレシピは。
焼酎 45ml。
トマトジュース 100ml。
桃屋のキムチの素 数滴。
以上。
ピリッと唐辛子が効いた
血まみれグロスター、
どうぞ御賞味あれ。


画像は先日、
ようやく発見・購入した
Clamatoを用いて作りましたる
Bloody Gloucester であります。