ASC『恭しき娼婦』

jazzydays2008-04-12

敬愛する
シェイクスピア俳優であり、
演出家でもある
彩乃木崇之氏 率いる
劇団ASC
(Academic Shakespeare Company)が
初めてシェイクスピア以外の
戯曲に挑戦した。
選ばれたのはサルトル
『恭しき娼婦』。
場所は西荻窪・遊空間がざびぃ。


サルトル全集〈第8巻〉恭しき娼婦 (1952年)

サルトル全集〈第8巻〉恭しき娼婦 (1952年)


サルトルと聞いて。
難解な不条理劇を想像した私だが。
原作を読んでみると、
「まっとう」すぎるほどに
「まっとう」かつ人間臭い
作品であることが判明。


キャストはたった4名。
リッジー日野聡子。
上院議員&黒人、彩乃木崇之
フレッド、鈴木浩史(すずき・こうし)。
ジョン&ジェイムス、鈴木祐(すずき・ゆう)。


時は1950年代アメリカ南部。
黒人の地位がまだまだ
「人」として扱われていなかった
頃が舞台である。
詳細は原作にふれてもらうとして。
以下、簡単に観劇の印象をば。


劇団代表・彩乃木自身が
チラシでいみじくも述べているように、
『恭しき』+『娼婦』
というタイトルからして、
すでにオクシモロン(矛盾形容)を
含むこの作品の
演出手法はまさに
矛盾・矛盾・矛盾の連続である。


黒と白。
善と悪。
男と女。
光と闇。
そんなチンケな
二項対立では到底
語りきれない、
やるせない自己矛盾が
登場人物一人一人の中に
根深く居座っている。


演出を貫く基調カラーは
当然ながら。
黒と白。
ステージに陣取るピアノもまた
黒鍵と白鍵から成る楽器。
そこから流れ出す
アメリカ国歌」の
空々しい明るさ。


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彩乃木崇之
白人の上院議員を演じる際は
黒のコート姿。
黒人を演じる際は
白のタートルネック
外見による「矛盾」が
ここで暗示されている。


上院議員の息子
フレッド(白人)を演じる
鈴木浩史は全身黒ずくめ。
しかも。
稽古やリハーサル時に
さんざん着古したのであろう、
床に擦れたままの
「白い汚れ」が目立つのだ。
ため息が出るばかり、
心憎いばかりの演出である。


劇の終盤で
黒人が逃げおおせた、
と耳にして束の間、
安堵の微笑をもらすリッジー
果たして彼女は。
敗北したのか?
勝利したのか?


答えはたぶん。
そのいずれでもない。
ただ、言えるのは。
彼女の出した結論が
苦い苦い
「生きる権利」
であったということだ。


以下の画像は。
原作本に頂戴した
出演者たちのサイン。
本の刊行は1956年(初版は1952年)。
50有余年の歳月を飛び越え、
私の手元に渡ったもの。
そこに記された
真新しい署名の数々に、
深い感慨を覚えずにいられない。