斬新!痛快!オセロー

jazzydays2006-09-09

シェイクスピア作品の悪役って、
何故こんなにも魅力的なんでしょ。
『リチャード三世』の
タイトルロールといい、
リア王』の
エドマンドといい、
『タイタス・アンドロニカス』の
アーロンといい、
『オセロー』のイアーゴー
(松岡訳ではイアゴー)といい。
黒々とした悪意の裏側に、
ものすごく人間くさい
弱さが見え隠れしているのよね。


去る8/31、東中野
梅若能楽会館にて、
栗田芳宏演出『オセロー』を観劇。
そこでイアゴーを演じた植本潤
筆舌につくしがたいほどのハマリ役だった!
植本氏、所属している"花組芝居"では、
ほとんど女形専門なのだが、
以前、"子供のためのシェイクスピア・カンパニー"
による『リア王』でエドマンドを演じた際の
邪悪な色気に、たまらなくゾクゾクさせられた覚えがある。
今回は、主役オセローをしのがんばかりの存在感。
タイトルを『イアゴー』に
変えたいぐらいだね。

当日は、あまりの名演ぶりにナマズも驚いたか、
上演途中で震度4(17:18、 M4.8)の
地震が起きちゃったもんね。


能舞台でのシェイクスピア作品上演を
体験するのはこれが2度目。
前回は今年2月、同じく栗田芳宏演出による『マクベス』。
http://d.hatena.ne.jp/jazzydays/20060209
派手な道具立ては一切ナシ、
シンプルの極みの古典的空間。


主な配役は。
オセロー、谷田歩。
デズデモーナ、市川笑也
アゴー、植本潤
ロダリーゴー、河内大和。


栗田演出はこれまで何度も見ているが、
彼にやりたい放題を許すと、
クドくてクドくて、しょうがなくなる。
アレもコレもと、詰め込みすぎて、
収拾がつかなくなってしまうんだろう。
さらには。
サタニスト(?)栗田氏、
舞台上にペンタグラム(五芒星 )やら、
タロットの悪魔像やら、オカルティックな
小道具を用いるのがお好み。
あんたヤバイよ、それ。
ちゃんと上演前にお祓いしてるのかよ。


ってな感想を抱くことが多かったのだが、
この能楽堂シリーズで、
演出家・栗田(彼は俳優でもあり今舞台にも出演)
の類まれなる才能を再発見。
三間四方の能舞台という、
あえて制約のある空間を選んだことで、
過剰な部分がスッキリそぎ落とされ、
作品のエッセンスがググッと
前面に押し出されたのである!


そして、特筆すべきは松岡和子による新訳。
これまで、小田島雄志(おだしま・ゆうし)訳による
上演に慣れきっていた耳には、
思わずドキッと、ギョッとさせられるほどに、
生々しい平成の日本語なのだ。


私がシェイクスピア作品に初めて接したのは、
新潮文庫版の福田恒存訳。
昭和な響きの日本語が格調高く美しい!
ただ、彼の訳は上演では少々聞き取りにくいのが難点。
「わかりやすさ」がウリの小田島訳は登場当時、
斬新と称賛されたが、30年近く経ると、
さすがに古くさくなってきた感は否めない。


で。今回の松岡訳。
私は彼女の文体の大ファンで、
シェイクスピア作品の翻訳はもちろん、
劇評やエッセイの類にも、よく目を通す。
彼女のシェイクスピアは、女性ならではの観点を
生かしたセリフが自然で大変好ましい。
スピーディーなテンポも最高!
ちょっと小田島訳と比較してみよう。
(小田島訳=小、松岡訳=松)


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第一幕第一場イアゴーの台詞。
(小)「おれの立場上、まずくもあるしあぶなっかしくもあるんだ」
(松)「俺の立場からするとまずいしヤバそうだ


第二幕第一場イアゴーの台詞。
(小)「清らかだと、とんまだな!」
(松)「天使だと、ただのスケだ!」


(小)「色気さ、この手に賭けて言う。」
(松)「やりたがってんだよ、間違いない。」


第三幕第四場イアゴーの台詞。
(小)「おお、なんたる幸運!あそこにおいでだ」
(松)「ほら、あそこに、ツイてますね!」


第四幕第二場イアゴーの台詞。
(小)「ひどいって、なにが?」
(松)「何がまずいんだ?」


(小)「おれの話を聞けよ、ロダリーゴー。」
(松)「まあ聞けって、ロダリーゴー。」


第四幕第二場イアゴーとロダリーゴーの会話より。
(小)「いいか、おまえに弁償させるからな。」
(松)「いいか、お前に落とし前つけてもらうからな。」


(小)「よし、よく言った。」
(松)「言ってくれるね。」


(小)「いやあ、おまえにも勇気があるんだなあ。」
(松)「ほう、お前にも根性があるんだな。」


(小)「それをおれにやれっていうのか?」
(松)「で、それを俺にやれってか!」


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キリがないので、ここらでやめるけど、
松岡訳の、このスピード感!この現代性!
いずれは古びる日が来るのだろうが、
現時点では、私にとって断然!ベストなんである。


おまけ。
観劇当日は、開演前に敬愛する
シェイクスピア俳優で演出家の彩乃木崇之
(Academic Shakespeare Company代表)にバッタリ遭遇。
大あわてでコンビニおにぎり&ユンケルを
胃に流し込んでいるところを
バッチリ見られて恥ずかしかった.....。