「踊り候え」- 鴨居玲展

jazzydays2015-06-10

その画家の名は聞いたことがなかった。
が。
電車内の中吊り広告を目にしたとたん、
展覧会を見逃してはならぬという
矢のような直観に見舞われた。
鴨居玲
不吉な磁力、
とでも言おうか。
鴨居?
もしや。
下着デザイナー・鴨居羊子
関係アリ?
はたして予感は正しく、
彼女の実弟であった。


鴨居玲の作品は題材にかかわらず、
いずれもが彼自身を
描いたものと言われている。
モデルの体温や体臭までもが
立ち上ってくるかのような、
人間臭いポートレイトたち。



「酔って候」


あるいは。
ポッカリ暗い眼窩の
うつろな自画像たち。



「肖像」


あるいは。
宙空に浮かび上がる
入口のない教会たち。



「教会」


切支丹の地、
ヨーロッパを長年転々としながら、
「神を持たぬ」画家は
ついに受け入れられることが
なかったのだろうか。
一ヶ所に定住できぬ放浪癖。
アルコール・睡眠薬への耽溺。
度重なる自殺未遂。
いかにも伝説の画家、
という背景に彩られつつ、
一方では草野球を愛する
カラリと明るいキャラをも
あわせもっていた。



万華鏡だよ人生は。
すべからく合わせ鏡だよ。
屈託のない笑顔の写真からは、
鴨居がそう呟く声が
聞こえるような気がする。
画風は全く異なるが、
生涯、執拗に自画像を
描き続けた画家としては、
牧野邦夫に通ずるものがある。
韜晦癖・偽悪癖において。
牧野については以前熱く語ったので、
御興味おありの方は↓をば。
http://d.hatena.ne.jp/jazzydays/20130605


鴨居は自らの手で世を去ったが、
それさえ生涯何度も繰り返した
狂言の一つだったのやもしれぬ。
年を重ねても成熟しない
プエル・エテルヌス=永遠の少年、
という意味では
漂泊の天才詩人ランボーにも似ているな。


≪餓え、
 渇き、
 叫び、 
 ダンス・ダンス・ダンス・ダンス!≫
 (ランボー『地獄の季節』より「悪い血」)


没後30周年記念、
鴨居玲展「踊り候え」は
東京ステーションギャラリーにて
7月20日まで開催中。
さあ。
アナタもワタシも踊ろじゃないか。
死と生のキワキワでしか
勝負できなかった画家と一緒に。
ダンス・ダンス・ダンス・ダンス!
http://www.ejrcf.or.jp/gallery/exhibition/201505_Rey_Camoy_Retrospective.html