「嵐が丘」へ 2

jazzydays2008-08-20

引き続き。
嵐が丘の舞台を訪ねた
旅行記をば。
以下、当時の日記を
ほぼ原文そのまま引用。


繰り返すが。
現地に足を運んでから
かなりの年月が流れているため、
交通手段や到達までのルート、
および所要時間は
変更されている可能性あり。
よろ。


持参したカメラは
オリンパスXA。
コンパクト・レンジファインダー
革命的寵児。
http://www.olympus.co.jp/jp/corc/history/camera/capsule.cfm#01
手動でピントを合わせるので、
とことん納得のいく撮影ができるものの、
決定的瞬間を逃しやすいのが難点。


残念ながら。
旅の写真は現在、
我が家のどこかに潜伏中。
埋蔵金かよ。
まっ。
いずれ見つけたらアップするぜ。


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[19××年10月20日]


おかみさんが今朝、
「Have a nice day!」
と言ってくれたにもかかわらず、
ひどい日であった。
まず第一に雨が降っているのがいけない!
moor は元々湿地だから、
雨が降ると、ぬかるみだらけで
もう最悪なのだ。


そして風がものすごく強い。
傘をさしていられない。
風が吹いても、
吹く方向が一定してるならいいけど、
あちこち風向きが変わるので、
傘を持ち続けるのが大変だった。
一体、何回「おちょこ」になったことか!


Bronte Waterfalls(滝)は
heavy rain の後でないと見すぼらしいと
ガイドブックに書いてあった。
確かに waterfalls は
見事だったかもしれないけど、
とにかく雨はイヤだったね。



そして。
今日の最悪の事態は、
私が Top Withens
嵐が丘のモデルとなった屋敷跡)
だとカン違いしていた建物の前が
ぬかるみどころではなく、
沼だったのである。
ずぼっ!と膝まで泥水に
つかってしまったのだ。
もう絶望的。


泥まみれの足を引きずって
何とか町の中央部まで戻り、
Bronte Parsonage Museum
(ブロンテ姉妹の住居跡)に入ったのだが、
http://www.bronte.info/
体が雨で濡れているせいで
ガタガタふるえてたよ。



お昼を食べてなくて、
もう2時過ぎだったが、
何しろ泥で汚れた格好だし、
寒いし、どこかで食べようなんて思えなくて、
また、シーズンオフのせいかどうか、
食べ物屋が極端に少なく、
とにかく宿まで帰ることにした。
その前に Haworth Parish Church
(ブロンテ姉妹の父が牧師を務めていた教会)に寄った。
http://www.haworth-village.org.uk/history/church/bronte_church.asp



宿に帰り着くと、
まず泥まみれの靴とジーンズを洗い、
シャワーを浴びた。
そして5時半から
1時間ぐらい眠ってしまった。
明日は雨だけは降らないで欲しいなあ。
今日、近くまで行っていながら、
Top Withens まで
たどり着けずに戻ってしまったし、
Ponden Hall
(作中のスラッシュクロス・グレンジのモデル)
も見たいし。
お天気に、とは言いません。
風が吹いてもいいです。
曇り空で結構ですから、
雨だけは御勘弁下さい。


と、ここまで書いていた時、
おかみさんが紅茶と
レーズンの入ったマフィンを
持ってきてくれた。
ああ感激!
本当にありがとう。
泥にはまった話をしたら、
「Are you all right, dear?」
と何回も気遣ってくれた。


footpath を歩いている時、
何度も何度も羊の群れに出会った。
私が通りかかると
全員で(!)じ〜っと
こちらを見るんだよねえ。
「そんなに見るなよ!」
日本語で対抗したけどさ。
羊たちは皆、
どこの所有かわかるように
背中やお尻が
赤や緑に染められている。


Keighley のスーパーで
食料を買っておいて本当によかった。
今日の夜は Heinz の
スパゲッティ・ボロネーズ(缶詰)と
Shandy(ビールのレモネード割り)と、
ぽそぽそしたカステラとパイの土台に
ジャムをはさんだ、
甘すぎて気分の悪くなるお菓子。
それでも飢えるよりはマシだ。



昨夜の Scotch Broth は
金属の臭いがしたし、
まずかったのだが、
案の定、眠る前に胃が痛くなり、
今朝は下痢をした。
ひどいもんよ。


[19××年10月21日]


今日はロンドンに戻るつもりだったのに、
私はまだハワースにいるのです。
全く、この土地とは相性が悪いらしい。
それとも
Cathy の亡霊のせいかもしれない。
予定では、Ponden Hall と Top Withens に行って
すぐに帰るはずだったのだが、
まず Ponden Hall にたどり着くまでに
手間がかかった。
http://www.haworth-village.org.uk/brontes/ponden-hall/ponden-hall.asp
標識があいまいで、
あっちこっち振り回されてしまったのだ。


それから footpath を通って
Top Withens への近道を行こうとしたら、
ものすごいぬかるみで、
おまけに途中で工事みたいなことを
やってるので、
引き返すことになった。


別の近道でないほうの
正規のルートから
Top Withens にたどり着いたまでは
よかったのだが、
そこから先が地獄だった。
ハワースへ向かうつもりで、
ぬかった footpath をたどって行くと
湖に出たが、
ハワースでもスタンベリーでもない
ひどく辺鄙なところで、
人ひとり見かけない。


湖の周囲をあっちこっち
ぐるぐるしたあげく、
何と来た道を
引き返すことになった!
ああ、もう、
ため息どころの騒ぎではない。
どどどっと疲れたぜ。


まわりは果てしない
湿地帯の moor だし、
いるのは羊と
ケラケラ笑うように啼く鳥ばかり。
正気で生きて帰れるかどうか
心配になるくらいだった。

(Top Withens の風景はコチラを↓)
http://www.bbc.co.uk/bradford/360/version2_top_withens_3.shtml



やっとの思いで Top Withens まで戻る。
そこで腰を下ろして
がっくりしていると、
向こうから中年のカップルがやって来た。
ハワースへの行き方をたずねると、
やっぱりスタンベリーまで
まず行くしかないようだ。
またがっくり。
疲れがさらにひどくなる。


何とか元気をふるいおこして
歩き出すと、途中、
おじちゃんおばちゃんたちばかりの
一団に会った。
にっこり笑いかけてくれて
お互い「Hello」と声をかけ合い、
ひととき心がなごんだ。


スタンベリーまでたどり着き、
バス停の時刻表を見ると、
次のバスまで1時間半くらいある。
そこでついにハワースまで
歩くことになった。
ああもう死ぬ思いで
足を引きずりつつ、
やっと、やっと、
ハワースに着いた。


もうロンドンに帰る元気はなく、
もう一泊することにして
B&B を探していると、
二匹のガキがこっちを見て
「China, Ha, Hoo, Ho!」
とかなんとか
わめいている。
「やーい、中国人め、やーい!」
と言っているらしかったが、
疲れすぎていて
別に気にもならなかった。
誰かが
「そんなこと言ってはいけない!」
と諫めていたようだったけど。


本当は今朝までいた
Roos Cottage に戻りたかったけど、
大量の缶詰の空を捨ててきたのが
恥ずかしく、戻れなかった。
あそこのおかみさんは
実に sweet で lovely でした。
今朝、私が紅茶をストレートで
飲んでいるのを見て、
「昨夜の紅茶にミルクを
 入れてしまったけど、
 飲めた? ごめんね」
などと言う。
何というやさしさでせう。
値段も格安だった。
毎朝、紅茶をベッドまで
運んでくれて。


とにかく、Tourist Information の
左の通りをうろうろしていると、
一人のおばさんが近づいてきて、
「何を探してるの?」
と言うので、
B&B を探している」
と答えたら、
「そうだと思った。
 さあ、ここに入りなさい」
と言われ、彼女が経営している
Heathcliff Cottage に宿を取る。
料金前払い。
前払いのところというのは、
たいてい、あんまり
よくないのだ。
人を信用してないわけだし。


さて、ここは灰皿はあるけど
ごみ箱のない部屋で不便である。
ベッドがダブルなのはいいけど、
暖房がなく、
吐く息が白く見える。
さっき7時間歩きづめの
疲れを癒そうと風呂に入ったら、
何と途中からお湯が出なくなり、
冷たい水になってしまった!
ひどい話。
トイレは流れないし。
早くチェックアウトしたいわ。


7時間、ホントに歩き通しだった。
今まで生きてきて、
1日のうちに
こんなに歩いたのは初めてだ。

それも旅の荷物を持ったまま。
ぬかるみのデコボコ道を
転ばぬように気を使いつつ!


ああ、ひどい話ですよ全く。
しかし昨夜の願いが天に通じたのか、
雨は降らずに1日もった。
これは感謝せねば。
もし昨日みたいな雨だったら、
きっと全身泥まみれか、
moor に倒れ伏して
絶望のどん底だったね。
ハワースからスタンベリーへの
途中(Ponden Hall に行く時)、
烏の死骸を見たのが
よくなかったのかしら。


Top Withens でも
ちょっと不思議だったのだが、
写真を撮ろうとしても
すぐにはシャッターが下りないのだ。
それも1回ではなく、3回くらい。
Top Withens にいる時だけ、
そうなったので、
もしかすると
Cathy か Emily が
邪魔をしたのかも

しれないと思います。


Roos Cotttage の朝食。
紅茶、オレンジジュース、
Rice Crispies(Kellog's)、
トースト、ベーコン&エッグ、
トマトの焼いたもの、
揚げたトースト、ソーセージ。
満足でした。



再現すると大体こんな感じ。
(非常に精巧にできた食品サンプル!)


この朝食のおかげで、
何も食べずに歩き通すことが
できたのだから。
不思議とあまりおなかは
すかなかったんだよね。
Top Withens で持参したパックの
りんごジュースを飲んだだけ。


夜は Tourist Info. の
右の通りの Fish & Chips の店で
Fishcake(ポテトで魚を包んだコロッケ)、
chips、 sausage。
ここが開いてなかったら飢えていた。
どこもかしこも閉まっていて、
食べ物屋がないのよね。



実に激動の1日でありました。
明日は体が痛いだろうな。


Top Withens に行く坂道の
ふもとの農家の犬が
帰りにしっぽを振りながら寄ってきた。
かわいい!


[19××年10月22日]


やっとロンドンに帰ってきた。
しかし、Inter-City(長距離特急)が
30分ほど遅れるというアクシデントあり。
この旅は最後まで
Cathy に取り憑かれていたようです。
家に長い手紙を書いたら、
手が疲れてしまった。


しかし、昨日あれほど
歩いたにもかかわらず、
不思議と体は痛くないのだ。
これはいいことです。
今日は洗濯を大量にした。
頭も3日ぶりに洗うことができ、
非常にすっきりした。


昼はリーズの駅で買った
ハムサンドと Shandy を
車内で食べ、
夜は Farmhouse Thick Vegetable Soup。
これはうまかった。
そして Schweppe's の
Bitter Lemon とリンゴ。



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以上、
青春の「嵐が丘旅行記
ひとまず完結。
たった一人の強行軍の間、
繰り返し繰り返し
ケイト・ブッシュ
「Wuthering Heights」を
口ずさんでいた。
正気を保つために。
今でも歌詞を忘れていない。



右上の画像は
エミリー・ブロンテの肖像。


今日は首が痛いアタクシ。
毎度のことだよ。
わかる人にはわかるであろう。
理由は明日。