熱々燗

暖冬である。
が、日が落ちれば燗酒が似つかわしい肌寒さ。
図書館に資料を返しに行った帰りに、
以前、何度か入ったことがある蕎麦処へ。
閉店30分ほど前だったが、
笑顔で迎えてくれた。


鴨南蛮&熱燗二合。
この店は蕎麦の量が多いのが売り。
だけど、断然うまいから小食な私でも
ペロッと完食してしまう。
鴨の脂とダシがじっくり効いたツユには、
ぶつ切りネギがいっぱい。
薬味のネギもたっぷり。
ユズが一片ひらり。
いまだ完治していない風邪に、
効力を発揮してくれるかしら。


燗酒は、銚子を手にしたとたん、
あっちっち!ってな具合の熱燗できゃね。
人肌? ぬる燗?
んなもん、燗酒のうちに入りませんの。
当然、安い酒でいいんですの。
どこにでもある大衆銘柄の酒を、
変にありがたがったりしないで、
心置きなく、ぐいっとやる。


熱々燗のイイところは。
ふわ〜っと酔って、す〜っとさめること。
冷やで飲んでると、
つつ〜っと水のように入っていっちゃうから、
あとでガクンと酔いが回る。


ネギいっぱいの鴨南蛮と熱燗で、
体は汗ばむほどに、ほっかほか。
後ろのテーブルでは、
60代とおぼしきカップルが艶めいた話をしている。
言葉の端々から、
夫婦じゃないのは、すぐにそれと知れる。
いいねえ。
蕎麦屋で愛を語るなんざ、
粋だねえ。
当てられるねえ。
その相乗効果で、心もほっかほか。


ここで一首。
「さめかけた君の心を取り出して電子レンジで3分加熱」
俵万智じゃありません。
拙作でございます。
お粗末サマ。