Call & Response!

あっぱれな1冊。
『戦後日本のジャズ文化〜映画・文学・アングラ』
マイク・モラスキー著、2005年、青土社
昨夏、刊行直後に入手していたにもかかわらず、
積ん読のまま放置していたのを、ようやく読了。
もっと早く読むべきだった。


戦後日本のジャズ文化―映画・文学・アングラ

戦後日本のジャズ文化―映画・文学・アングラ


翻訳モノではない。
ミネソタ大学準教授(現代日本文学専攻)の
著者(アメリカ人)が全編日本語で執筆。
膨大な資料と証言を駆使して、
戦後から現代に至るまでの、
日本におけるジャズ受容史を、
鮮やかに浮き彫りにしている。
実に秀逸なドキュメント。


1956年生まれのモラスキー氏。
それぞれの時代、さまざまな場面を、
まるで「実際、そこに身を置いていたかのように」
生き生きと活写しているのは、見事というほかはない。
頭が下がる。


石原裕次郎がドラマーを演じた映画
嵐を呼ぶ男フロイト流分析は圧巻。フロイトよりユング派の私も、
その冷静かつ明晰な解釈に、思わず引き込まれてしまう。
また、日本人にとってのジャズを、
五木寛之村上春樹へ至る流れから、
文学的に俯瞰する視点もきわめて斬新だ。


特に共感が持てるのは、著者モラスキー氏が
徹底的に「ライブ重視」でジャズを語っている点だ。
以下、少々長くなるが、印象に残った部分を抜粋。


**************************


"Call and response" のやりとりに当たって、
respond する側(つまり、応える「聴衆」)が、
積極的にしかもタイミングよくリズムの合間に入って応えないと、
「パフォーマンス」している側(歌手および楽器奏者)が
調子に乗りにくく、結果としてパフォーマンス全体が
うまくいかないことがしばしばある。
 これはジャズ・ミュージシャンならだれもが
経験していることだろう。そのことを考えると、
「聴衆」というのはむしろ二次的な
「参加者」と考えたほうが正確だろう
。≫


≪音楽、ことに即興中心のジャズは、一回切りの体験である。
それに対し、レコードやCDはその一回性の特質を否定している。
少なくとも消えていくはずの音を凍結し、
永遠に反復して聴く(消費する)ことを可能にしている。≫


五木寛之はジャズを基本的に<コミュニケーション>として
見なしているのである。それがミュージシャンと聴衆との間の
<対話>であろうと、演奏中の(楽器によって表現される)
ミュージシャン同士の対話であろうと、
一方通行ではなく相互コミュニケーション
なければならない、という主張がつねに根底にある。≫


≪ジャズ・クラブにはよく行くが、ジャズのレコードは
二、三枚しか聴いたことがない-----そのようなジャズ・ファンは、
ほとんど考えられないではないか。
 ところが、一種の「ジャズ喫茶オタク」や
「ジャズ喫茶文化人」には、ライブ演奏はせいぜい
二、三回しか聴いたことがないのに、
ジャズの雑誌や評論集をよく読んだり、
珍盤を熟知しているようなファンは
めずらしくないだろう。(中略)
 さらにいうなら、有名な(アメリカ人)ミュージシャンが
来日したらコンサートに足を運ぶが、たとえば
東京に住んでいても地元の(日本人)ミュージシャンが
演奏するクラブにはまったく行く気がない、
というような「ジャズ・スノッブ
少なくなかったのだろうが、.....(後略)≫


≪事前に綿密に構成を練った作曲済みの演奏に比べ、
ジャズの場合、ミュージシャンの瞬間的な閃きによる
全く予想外の音や旋律が展開されるときがある。(中略)
 その音が体内の隅々まで染み通り、深い喜びが当分
消えないことがある。いずれもライブの聴取体験は、
たまらないほど鮮烈である。(中略)
 そのような瞬間を一晩に一度だけでも味わわせてもらえると、
私は当分その興奮が収まらない。
 未だに、約三十年前のライブ演奏の
そのような瞬間を記憶しているのだが、
そう思えば、その<一瞬>の聴取体験は
一生>の精神栄養剤となるといえる。≫


****************************


著者はプロのピアニストとして、来日時、
都内のジャズクラブで時折演奏しているそうだが、
私は残念ながら氏のLIVEに接したことがない。
どんな弾きっぷりなのかなあ。
体験したことがある方、今度教えてちょうだい。


さて。戦後というか、60〜70年代のジャズ@日本に関する
参考文献をここで何点か並べておきましょうかね。
いずれも「その場に居合わせることができなかった」
不肖アタクシには、大変勉強になった本たちでございます。


『ぼく自身のためのジャズ』
渡辺貞夫著、岩浪洋三編、1969年、荒地出版社、絶版)
(     同      1985年、徳間文庫、絶版)



『新宿ピットイン』
(ピットイン20年史編纂委員会編、
 相倉久人監修、1985年、晶文社、絶版)


新宿ピットイン

新宿ピットイン


『新宿DIGDUG物語〜中平穂積読本』
高平哲郎編、2004年、東京キララ社発行、三一書房発売)


新宿DIG DUG物語―中平穂積読本

新宿DIG DUG物語―中平穂積読本