「梅田本」最終章

jazzydays2008-05-26

梅田望夫
齋藤孝
同い年の男二人。
活躍の畑は異なれど、
見据えている未来と
闘うべき相手は同じ。
その熱い対談の記録が
形になった。


私塾のすすめ ─ここから創造が生まれる (ちくま新書)

私塾のすすめ ─ここから創造が生まれる (ちくま新書)


梅田氏の前著
『ウェブ時代5つの定理』は
単なる名言紹介集としか
感じられず、
いささか失望を覚えたものだ。


ウェブ時代 5つの定理―この言葉が未来を切り開く!

ウェブ時代 5つの定理―この言葉が未来を切り開く!


だが、この新刊は
文句ナシに手応え十分。
知的興奮と
刺激に満ち満ちている。


齋藤氏のナマ講演は
数年前に一度、聞いたことがある。
この人、通常の人間より
明らかに体温が高いな、
と思わせる
異常なハイテンションだった。
正直、暑苦しいキャラ。


文章の形で接してみても、
あのカン高く熱っぽい
「齋藤節」が
耳に甦って来る。
面白い男だよ。
実に。
まあ、笑えるセリフの数々は
本著を直接、読んでもらうとして。
以下、印象に残った
二人の言葉を抜粋しつつ、
感想を述べてみたい。


*************************


梅田≪誰が書いたかわからない匿名の掲示板は 
   ちょっと違うんだけれど、
   ブログや個人のホームページには、
   その人の「気」が乗っているし、
    (中略)
   たとえば、ある人のブログを一年間
   さかのぼって読んでいくと、
   初対面のときに、その人のことを
   かなりよく知っているということがおこる。
    (中略)
   会った瞬間にデジャヴ(既視感)を
   感じるんですよ。
   「初めて会う気がしませんね」と。≫


これは私も非常に
しばしば感じることだ。
名もない個人にとって、
ウェブ時代における
恩恵の最たるものではないか。


梅田≪蒸気機関や自動車が人間の筋肉の
   能力を増強したように、
   ネットが脳とか人間関係を増幅する。
   距離と時間と無限性の概念を
   ゆるがしているわけです。
   リアルの限定されたコミュニティだけに
   とらわれず、未知との遭遇のありようが
   がらりと変わってくると、
   いろいろな可能性が出てきます。≫


すでに。
かなり出てきてるよな。
可能性の数々。
ほんの十数年前にはまず
出会うことが不可能だったであろう
人々と親しくコミュニケーションできる。
このことだけでも、
「孤独なキツネ」にとって、
どれほどの「福音」であったことか。


齋藤≪ここまで社会がスピードアップしてしまうと、
   「好きじゃないともたない」。
    (中略)
   ある意味で厳しくなったというか、
   がまんすればそれで済むという感覚を
   超えてきたといえますね。
   そういう厳しい状況になってきたときに、
   僕は「心の自己浄化装置」が
   必要になってくると思います。≫


全く同感。
ただ。
今の自分にそれがあるか?
否・否・否。
濁った緑色の沼。
底の見えないドブ川。
「好き」なものはハッキリ見えている。
しかし。
浄化に手間取りすぎている。


梅田≪本を読むときに、
   「頭で読む人」と「心で読む人」が
   いると思っています。
    (中略)
   「生きるために
    水を飲むような読書」とか、
   そういうような言い方をしているんだけれど。
    (中略)
   「知」というものを頭の中に
   入れ込んで記憶して、
   それを人に伝えるとかひけらかすとか、
   どっちが物知りか比べるみたいなことだと、  
   グーグルにどうせ負けてしまう。
   ある程度の基礎力は必要だけれど、
    (中略)
   自分の生きる糧として知を使ってほしいです。≫


これは結構、
実践できていると自覚する。
本は音楽と同時に
私の大事なエサである。
一文字も活字を読まずに
一日を終えることはまずない。
ここ数日は。
「その手」の方面が
好きな人々には
きっと「昔懐かし」、
レイライン関連の本ばかり
読みまくっている。


齋藤≪僕は本を読んでいても雑誌を読んでいても、
   「なぜ今ここにこの言葉があるんだろう」と
   思うことが多いんですよね。
   「自分のために
    書かれたような言葉」
   だというふうに思う。
   幸運な偶然、偶然の出会いです。
   「セレンディピティ」感覚ですね。
    (中略)
   これだけ情報があふれていて、
   読むべき本も出つくしている感じがあるなかで、
   「これは運命の言葉だ」
   のように思える人だけが、
   情報ではない、心の糧になる言葉を
   もてる人だと思うんですよね。≫


そうそう!
そうなんだよ。
自分のために
書かれてるんだよ。

調べモノをしてる時に
ひょっこり出くわすんだよ。
たまたま開いた新聞の記事や
本のページに
今まさに探し求めていた情報が
載ってたり、ね。


齋藤≪深海魚と出会えるくらいに
   深くもぐらなくては、
   物事は身につかないという
   考え方なのです。
   他の人を見ていて、
   もぐるまでの期間の手前で
   浮かびあがっているな
   と思うことがあります。≫


うんうん。
でもね。
深海魚と出会った後に
潜水病になることもあるんだぜ。

不肖アタクシ。
現時点でそうかもしれませぬ。
そんなワケで。
最も深くうなずけた箇所が
以下の二つ。


梅田≪自分が「与えられているもの」と
   自分が「与えているもの」の
   天秤が傾いたとき
   (「与えているもの」のほうが重くなったとき)
   に辞める、というのが僕のロジックなんです。≫
   (注:一部引用者によりアレンジ)


梅田≪いつもシャワーのように浴びる言葉が
   励ましに満ちているのか、
   そうでないのかということは、
   私たち一人ひとりの精神に
   ずいぶん大きな違いを
   もたらすということです。≫


この本をもって。
梅田氏は執筆業から一時退き、
サバティカルに入る。
http://d.hatena.ne.jp/umedamochio/20080507
お疲れ様。
あなたがこれまでに
出してきた本の数々は、
ぼんやりとしか見えていなかった
ウェブの志向性を
クッキリと私の前に
立ち上がらせてくれた。


ところで梅田さん。
このどうしようもなく
ダメで使えない会社、
はてな」の社外取締役
まだ続行するの?
それがあなたにとって
喜ばしいワクワク感を
与えるなら、
どうか続けて下さい。
ただし。
くれぐれも無理なくね。


画像は川崎市内にて。
梅の後には。
桃、桜。
つつじ。
そしてまもなく。
紫陽花だよねえ。